大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

仙台高等裁判所 昭和32年(う)234号 判決

原判決は、被告人の本件犯罪にかかるたばこは、いずれも他に譲り渡されて没収することができないものとして、たばこ専売法七五条二項により被告人からその価額相当額三九五、八五〇円を追徴している。ところで、たばこ専売法七五条一項は、同法七一条等の犯罪に係るたばこ等はこれを没収する旨規定し、同条二項においては前項の物件を他に譲り渡した等の事由で没収することのできないときはその価額を追徴する旨規定しているのであるが、右の規定は、不正たばこ又はこれに代るべき価額が犯則者の手に留まることがないようにする趣旨であると解せられるから、同一人につき同一のたばこに関する譲受けと譲渡しが共に犯則とせられる場合犯則者の譲り受けたたばこが他に譲り渡さべたため没収することができないとしてその価額を追徴する以上、重ねて同一人の右譲り渡した同一のたばこに代るれき価額をも追徴することは許されないものといわなければならない。

そこで本件についてこれをみるに、原判決の前記追徴の基礎となつている犯罪に係るたばこの数量は、原判決が算定の基礎として示したたばこ一個の価格からして原判示一、二の譲り受けたたばこ計二一六カートン(一カートンは一〇個)及び原判示三の譲り渡したたばこ計八八、五カートン、以上合計三〇四、五カートンであることは計数上まことに明らかである。してみれば、原判決は、同一被告人から一方において譲り受けたたばこがすべて他に譲り渡されて没収することができないものとしてその価額相当額を追徴すると共に、他方において譲り渡したたばこについても同様の理由でその価額相当額を追徴したわけである。

尤も、原判決の追徴の基礎となつている犯罪に係るたばこが、原判示一、二の譲り受けたたばこについては、原判示三の譲り渡したたばことは関係なく、それ以外の他に譲り渡され、又原判示三の譲り渡したたばこについては原判示一、二の譲り受けたたばこ以外の他から譲り受けたたばこであるとするなら、原判決が前記三〇四、五カートン全部について没収することができないものとしてその価額相当額を追徴しても違法とはいわれない。そして記録に徴すれば前段でも触れたように本件で起訴され原判決が認定した原判示一ないし三の譲り受け又は譲り渡したたばこは、被告人及び三浦智史が他から譲り受け又は他に譲り渡したそのすべてを網羅するものではなく、そのうち相手方の氏名が明らかであるか明らかでなくとも取次者があつて譲り渡しの事実が明らかであるのみに止まる。従つて原判示三の譲り渡したたばこのすべてがそのまま原判示一、二で譲り受けたものであるとは限らず、或はそれ以外の被告人が米兵から譲り受けたものが含まれているかもわからない。しかし、記録を精査してもその関連性は明らかでない(またこれを明らかにすることは至難とみられる)のみでなく、却つて被告人及び三浦智史の検察官又は検察官事務取扱検察事務官に対する各供述調書によれば、被告人と智史との間で、主として智史がたばこの譲り受けを、被告人がその譲り渡しを各担当し、智史が原判示一、二の如く熊谷政子、逢田とき子等から各譲り受けたたばこも被告人に手渡し、これを被告人が自ら米兵から譲り受けたたばこと共に原判示三の如く(このうち二、三回は智史も譲り渡した)又は氏名不詳者に対し譲り渡したものであることが認められる。それならば、原判示三の譲り渡したたばこのすべてが原判示一、二の譲り受けたうちのたばこそのものでないとしても、幾らかそのものも含まれていることが推認されるので、原判決は少くともこの分について被告人から重複して価額を追徴したものといわなければならない。而して本件の場合においては、原判示一、二の譲り受けたたばこ計二一六カートンについて他に譲り渡され没収することができないのであるから、この分についてのみその価額相当額を追徴するに止める外仕方ないものと解するのを相当とするので、これを超えて被告人に追徴を命じた原判決は事実を誤認したか、さもなければ法令の解釈を誤つた違法あるものというべく、右の誤りは判決に影響を及ぼすこと明らかであるから、この点において破棄を免れない。

そこで、刑訴法三九七条一項、三九二条二項、三八〇条、三八二条により原判決を破棄し、同法四〇〇条但書により当裁判所においてさらにつぎのとおり判決する。

原判決の認定した事実を法律に照すに、被告人の原判示一(別表一)、二、及び三(別表二)の各所為は、たばこ専売法六六条一項、七一条一号、罰金等臨時措置法二条、刑法六〇条に各該当するところ、被告人には後記確定裁判を経た罪があるのでこれと右原判示一ないし三の罪とは刑法四五条後段の併合罪であるから、同法五〇条により未だ裁判を経ない右罪につき処断すべく、犯情により右一の各罪についてはたばこ専売法七六条によりそれぞれ所定刑中懲役刑と罰金刑を併科することとし、その他の罪については所定刑中いずれも懲役刑を選択し、これらの懲役刑については刑法四七条、一〇条により犯情の最も重い右一別表一の5の罪の刑に法定の加重をした刑期範囲内で、罰金刑についてはそれぞれ所定罰金額の範囲内で、被告人を主文二項記載のとおりの懲役刑及び罰金刑に処する。

なお、原判決は昭和三二年三月一三日被告人に対し懲役六月及び罰金刑を、但し右懲役刑について三年間執行猶予の言い渡しをしている。ところが、当審において検察官から通知があり、記録に編綴されている刑執行指揮通知書によると、被告人は昭和三二年二月二八日盛岡簡易裁判所において窃盗、住居侵入罪により懲役一〇月の判決言い渡しを受け、該判決は同年三月一五日確定したことが明らかである。右事実からすると、原判決の言い渡し当時被告人はすでに盛岡簡易裁判所において懲役刑の実刑の言い渡しを受けていたものであるが、該判決は未確定であつたので、原審が被告人に対し刑法二五条一項を適用し執行猶予の言い渡しをしたことは違法ではない。しかし、当審において原判決を破棄し、自判する現在においては最早被告人は刑法二五条一項一号の「前に禁錮以上の刑に処せられたことなき者」に該当しないので、執行猶予の法定要件を欠くものといわなければならない。しかし、本件は被告人が控訴した事件で検察官は控訴をしていないのであるから、刑訴法四〇二条により原判決より重い執行猶予を附さない刑を言い渡すことはできない。そこで被告人に対し刑法二五条によりこの裁判確定の日から三年間右懲刑の執行を猶予し、右各罰金を完納することができないときは同法一八条により、それぞれ金四〇〇円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置し、被告人が原判示一、二において譲り受けたたばこは、いずれも他に譲り渡されて没収することができないので、たばこ専売法七五条二項により主文五項記載のとおり被告人からその価額相当額(これが算出の基礎は原判示のとおりである)を追徴し、原審及び当審における訴訟費用は、刑訴法一八一条一項但書により被告人に負担させないこととし、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 板垣市太郎 裁判官 有路不二男 裁判官 杉本正雄)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!